kuru02-014040271514@
『急性腹症を呈し腹腔鏡で診断した14歳のFitz-Hugh-Curtis症候群』
#1 問診ー患者の訴え
【患者】14歳、女児
【主訴】右下腹部痛
【家族歴、既往歴】特記事項無し
【現病歴】2009年1月25日より三日間の上腹部痛と37度台の微熱を認めた。
その後次第に改善したため様子を見る。
2月2日、夜から右下腹部痛が出現。
2月5日、痛みが軽減しないため小児科外来を受診。右下腹部に自発痛、圧痛あり。血液検査にて白血球数9100/ul、CRP9.6mg/dlと炎症反応の亢進を認め急性腹症の疑いにて入院。
#2 症状
【入院時現症】
体温37.1℃、意識清明、咽頭発赤なし、頸部リンパ節触知せず、胸部聴診上異常所見を認めず、心窩部から右上腹部にかけて弱い圧痛があったが自覚痛は認めなかった。
右下腹部には自発痛、圧痛ともに強い。触診上は明らかな反跳痛や筋性防御は認めなかった。
腹部は平坦、肝脾は触知せず、グル音正常。
【入院時検査所見】
末梢血にて好中球比率の増加を伴う白血球の軽度増多、CRP値の上昇を認めた。
生化学所見には異常を認めなかった。胸部および腹部レントゲンでは異常所見なし、腹部超音波検査でも肝、胆嚢、腎、膵、脾に異常なし。
【入院後経過】
入院後、腹部・骨盤単純CTを撮影。腹部には明らかな所見なし、骨盤部では少量の復水貯留確認。腫大した虫垂を思わせる構造物があり、急性虫垂炎、生活歴等から骨盤内炎症性疾患の可能性も考慮し同日緊急手術。
腹腔鏡を挿入すると右下腹部中心に、肝・小腸の表面に発赤あり、腹膜との間に糸をひくような粘性の繊維素性癒着を認めた。これにより「Fitz-Hugh-Curtis症候群」と判断。
#3 検査
血液検査
腹部超音波検査
腹部・骨盤単純CT
#6 治療
虫垂が後腹膜側へと回りこんでいたため、小開腹手術とした。虫垂には明らかな腫大は認めなかったが、両親と相談した上で切除。結果的に病理組織ではmild appendi-citisと診断。病前検査での血中クラミジア抗体はIgG3.99(<0.90 C.O.I), IgG5.43(<0.90 C.O.I)と陽性であった。
また腟と腹水でも擦過検体のPCR法でクラミジアが陽性であり診断を裏付ける結果となる。
術後に抗菌薬治療としてアジスロマイン1000mg単回経口投与と、ミノサイクリン200mg/日の5日間整脈内投与を行ったところ腹痛、検査所見ともに徐々に軽快し抗菌薬を内服に変更し退院した。
#7 合併症
骨盤内炎症性疾患を発症した未治療クラミジア感染症女性のうち約17%が不妊、約9%が子宮外妊娠を認めた。(米国のデータ)
#8 鑑別診断
急性虫垂炎
骨盤内炎症性疾患
#9 予後
思春期女子における卵管炎は瘢痕化を引き起こす可能性が高い。
その結果として生じる閉塞により不妊になったり子宮外妊娠のリスクが高まる。
諸外国と比較しても既に同程度の性交経験率になってきていることなどから、小児科領域におけるクラミジア感染の症例が今後も増加していくことは確実である。
#10 文献
日本小児科学会雑誌260401p58
(文責kuru)