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症例1)
○問診:麻疹が流行した北海道栄高校の学生の16歳女性で麻疹ワクチンは接種してない。
第1病日(5/15)吐き気、咽頭痛、頭痛、倦怠、39.5度の熱発のこの日を第一病日とする。
第4病日(5/18)熱は続き、発疹が顔面と前胸部乳房上縁、上腕の不定形の小褐色疹が出現、胸苦を伴う咳嗽あり。コプリックが出現。
第8病日(5/22)より解熱したが眼痛が生じていた。
第11病日(5/25)褐色の退色をみとめた。
○検査結果
第4病日(5/18)WBC=1600 Measles IgM(EIA) 0.8↓(negative) MeaslesIgG(EIA) 0.50↓(negative) MeaslesIgG(HI) x8↓
第11病日(5/25)WBC=4100 Measles IgM(EIA) 16.79(positive) MeaslesIgG(HI) x8
症例2)
◯問診:麻疹発生が多かった道立栄高校と同じ電車で登別大谷高校に通う16歳女性。
第1病日(6/28)より熱発と顔面の発疹が生じたとのこと。この日を第1病日とする。
第3病日(6/30)に初診。この朝から38.5度前後の熱 朝に顔面に湿疹がでたとのことで来院があった。
◯初診時所見:咽頭自体の発赤はないが、口腔粘膜は、全体に腫脹し、細かい米粒様の粘膜の撚りが歯列に一致してみられるが、コプリックではないと思われた。聴診上特に問題ない。顔面はアクネ様の湿疹が全体に広がる。顔面の腫脹が気になった。倦怠はあるがつよくない。頚部のリンパ節はふれない。上腕部にも毛細管拡張様の丘疹が散在。
第4病日(7/1)本朝より解熱している。コプリックはない。顔面の毛細管拡張様の皮疹は確かに増え、顔面と上腕だけだったものが、背部、腹部にも数個ある。疹は圧迫により、消退傾向がある。毛嚢炎やアクネなどではないと思われた。この日 血算および、MealsesPCR(咽頭)、MeaslesIgM(EIA),IgG,(PA)を採取した。
○その後の経過。再熱発などはないが、臨床的および、病歴(麻疹ワクチン1才時施行。本人が6才時に4才の弟がMeasles自然感染しているときに、発症していない)ことから、ご本人にお願いして、自宅隔離とした。
第7病日(7/4)より褐色の色沈をのこして消退を始め、7/4〔第6病日)には、ほとんど消退。
第8病日(7/5)時点では完全に色素沈着も消えた。
(登別大谷高校0143-85-2970
○検査結果
第4病日(7/1)wbc 5200左方移動-MeaslesIgM(0.80↓、negative),PAx4096,PCR(positive)
○問題点
1)症例1 は初感染と思われる症例で、ほとんど典型的臨床症状だが、2峰性ではなかった。
2)コプリックが出現した初日に1回目の検査をしているが、WBCの著明な減少以外、抗体に反応がでていない。高熱が4日目になっても検査に異状が出ない場合もしも典型的臨床症状がでなければ、患者および家族はどう行動するか。
3)ミドリザルの養護問題などから、膨大なdataの蓄積があり、IgMの反映されないHIが、維持抗体の検出に使用しにくい。
4)鋭敏と思われているEIAがコプリックが出現しても陽性にならないことがある。
以上から、当院は、過去CF,HIのデータベースから離れて、新たに、しかも比較的迅速に結果のでる検査として、PCR法をとりあげ、共同研究することにした。症例2は その第4例目である。
5)症例2は修飾麻疹と思われるが、熱は第4病日にさがっている。コプリックははっきりせず。ただし、第1病日を2峰性の熱の初日ととらえれば、全体の臨床経過は自然感染に近い。微熱のため健康な患児が気がつかなかったと考えられる。この場合は、少なくも検査が陽性になたのは、仮の修正第7病日(7/1)でこの時点でまだEIAに反応していない可能性が出てくる。
6)症例2で第4病日(仮の修正第7病日(7/1))にPAの高値(HIに換算してx2048)は維持抗体とは考えにくいが、仮に医師が、尋問をしてしまい、本人より、”そういえば、6/25ごろ微熱があったかも”と自白をしてしまえば、どうだろう、第7病日にIgM- IgG+という結果は判断に苦しむことになる。参考までに、栃木島根兵庫新潟で1996年7-9に行われたPAの調査では、HIの倍のx16の抗体保有者での平均保有抗体価は210.1だったと文献にある。
○結語
以上から、現在の長年にわたる麻疹の臨床症状のとらえ方は、熱の2峰性とその前後のカタル期、発疹期およびその両者にまたがるコプリックにすべてが左右されている。また、検査も抗体の典型的上昇の事実からまずIgM,次にIgGの上昇という図式の制約されているように思われる。当院の2症例はこれらの制約にあたらない。特に免疫系に記憶がある場合(過去の獲得された免疫)の抗体上昇は非常に早期(48時間以内)にあり、若干の診療日のずれ(患者の都合や、休診日の関係)により、診断が非常に困難となってしまうと思われる。しかしながら、 麻疹によるslow viral infection(SSPE)の実態は解明されたとはいえないこと、麻疹が脳炎(全麻疹の0.1%で、死亡率10%)も含めて全身感染症であることなどを考えると、インフルエンザ以上に注意すべき感染症であるのは事実であるから、次の2つを考える。
1)麻疹においては、典型的自然感染例より、現在問題となるのは、異形(主に、蕁麻疹様発疹など、非典型的発疹を伴う麻疹の意味で、ガンマグロブリンの投与後の感染という狭義の定義ではなく)および修飾麻疹であるとすれば、直接的に麻疹の存在を証明するPCR法の意義は大変に大きい。したがって、学校関係者は、一度麻疹が疑われたらPCR、EIA、PAx4096の3法のうち2法が陰性でない(最大3-4日)と分かるまでは、学校の欠席扱いはしないなどの処置をとることや、
2)維持抗体の表現はPAが、動物愛護的にも初期IgM混入を避ける意味でも過去の膨大なHIのデータとの比較に於ても現在では最良で、また、各自治体は、無駄な麻疹ワクチン接種を避けるためにも年齢に応じた定期的抗体検査の実施や、流行時のブースター効果判定に必要な臨時抗体検査の実施が医療経済的にも有用であると思われる。
○文献
1)http://idsc.nih.go.jp/yosoku/Annual-J/yosoku96/meastext.html
2)藤井良知監修:小児感染症学、第1版、南山堂、1985
3)Levinson,W and Jawetz E:Medical Microbiology & Immunology,4th ED,Appleton and Lange,1996